マンボウとヤリマンボウを比べてみよう

今回はマンボウとヤリマンボウについて色々比べてみることにしましょう。マンボウ科の魚は非常に謎が多く、その生態・回遊経路などは詳しく分かっていません。そんな中、マンボウとヤリマンボウの双方にタグを付けてその行動を記録した報告を見つけたので、ここに比較をしながら紹介したいと思います。まず、マンボウとヤリマンボウの形態的な比較をしてみましょう。

名前

マンボウ

ヤリマンボウ

写真

manbou11.jpg

yarimanbou2.jpg

ザラザラ

ツルツル

舵鰭

丸みを帯びている

中央がヤリのように尖る

体型

体高が高い

楕円形

他にも色々あるでしょうが、ざっとこんな感じで区別できます。ちなみに私の全国の水産関係機関へのアンケート調査によると日本に出現する(主に定置網による漁獲)マンボウ科魚類のほとんどがマンボウ1種です。マンボウに比べてヤリマンボウの個体数は圧倒的に少ないのでしょうか?では本題へ参りましょう。参考にした文献は

マンボウ・・・Tracking Ocean Sunfish, Mola mola with Pop-Up Satellite Archival Tags in California Waters

ヤリマンボウ・・・Behaviour of a sharptail mola in the Gulf of Mexico

です。ちなみにマンボウの報告はココ(http://www.oceansunfish.org/MontereySanctuaryv11.html)で読むことが出来るので興味のある方は読んでみて下さい。ヤリマンボウの文献も以前はネットから無料でダウンロード出来たのですが、今はお金がいる(?)ようです。

まずこの2つの報告はどのような調査をしたのかを述べると、マンボウは2000年の8月26日にアメリカ西海岸のサンディエゴ沖で、ヤリマンボウは2000年の4月28日にメキシコ湾で Pop-Up Satellite Archival Tags(PSAT)を付けて放流し、その行動を記録して解析するというものです。

Pop-Up Satellite Archival Tags(PSAT)について

Pop-Up Satellite Archival Tags(PSAT)とは回遊魚などの行動を探るために魚体につける衛星タグのことです。設定した期間が過ぎると魚体からはずれて水面に浮かび上がり、記録されたデータ(水深、深度など)はアルゴス衛星を経由して地上に送信されます。漁業を通じての再捕報告過程が必要なく、高い確率でデータを得られることができます。

さてここでこの2つの報告の調査過程を比べてみましょう。

マンボウの報告

ヤリマンボウの報告

調査期間

00/8/26〜01/03/17(204日

00/04/28〜00/06/27(61日

放流地点

アメリカ西海岸のサンディエゴ沖

メキシコ湾

全長

1m

個体数

以上のようになっており、調査期間も放流地点も違い比較の方法も違いますが、比較出来る部分を取り上げて比較してみましょう。

@深度まずマンボウについてですが、

一日のうち最も長い

時間を過ごす深度

最大深度

00/08/28

0〜5m(50%)

100〜200m

00/10/27

20〜40m(30%),10〜20m(20%)

300〜400m

00/12/12

200〜300m(40%),40〜60m(25%)

200〜300m

01/03/15

10〜20m,100〜200m(40%)

100〜200m

※パーセンテージは私がグラフから読み取ったおおよその数値です。

となりました。季節によって過ごす深度が違いますね。水温やエサの量が関係してくるのでしょうか。あと、このマンボウは最大で300〜400mほど潜ることが出来るようです。しかし、ここまで潜るのは一日のうちの0.1%くらいでほとんどこの深度では生活をしていないようです。つづいてヤリマンボウです。このヤリマンボウの61日間の移動距離は594.5km、一日の平均移動距離は9.7km/日。

深度

Day

Night

平均

0〜10m

10%

3%

6.5%

10〜50m

25%

14%

19.5%

50〜100m

50%

40%

45%

100〜250m

10%

42%

26%

250〜1000m

5%

1%

3%

※パーセンテージは私がグラフから読み取ったおおよその数値です。

この数値は61日間の平均だと思われます。このヤリマンボウはその生活のほとんどを水深10〜250mの圏内で行動し、その中でも水深50〜250mあたりを特に好んでいると思われます。さらに夜間はほとんど水深10〜250mの圏内で行動しますが、昼間は浅場(0〜10m)や深海(250〜1000m)にも訪れることがあることが分かります。さらに詳しく述べると夜間は0〜5m、300〜1000mには全く訪れていません

以上のことから

1)マンボウは300〜400m以上は潜らないが、ヤリマンボウは1000m近く(この調査では900m付近まで)まで潜ることが出来ること

2)マンボウは浅場(0〜5m)で生活することもあるが、ヤリマンボウは浅場にはほとんど訪れることがない

ことがわかります。ヤリマンボウに関しては Schwartz & Lindquist(1987)のヤリマンボウは水面で日光浴(マンボウの昼寝)をすることはほとんどなく、あったとしてもそれは病気か死にかけの個体である、という仮説を支持する結果となりました。

さらに上で述べた「日本に出現する(主に定置網による漁獲)マンボウ科魚類のほとんどがマンボウ1種」という結果は、単にマンボウに比べてヤリマンボウが少ないのではなく、マンボウは浅場(0〜5m)でも生活出来るがヤリマンボウは水深50〜250mあたりの深場を特に好んでいるため、あまり定置網にはかからないからではないでしょうか。定置網の深さは大きいもので80mにもなりますが、それ以上の深場で生活をするヤリマンボウはあまり定置網にかかることがないのでは。実はヤリマンボウも日本周辺にはたくさん接近しているのかもしれませんね。

ただし、この結果はマンボウ・ヤリマンボウともに1個体のみの結果であり、そのコンディション、環境、そして個体の大きさなどにより変わりうることが十分に考えられます。さらにヤリマンボウに関しては4〜6月の短い期間のみでしか調査をしていません。参考にはなるでしょうが、詳しく知るためにはさらなる調査が必要でしょう。


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